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東京高等裁判所 昭和44年(行コ)28号 判決 1972年11月28日

昭和四四年(行コ)第二八号事件控訴人

第一審原告 西川二三雄

<ほか五名>

昭和四四年(行コ)第二六号事件被控訴人

第一審原告 落合三郎

<ほか一名>

右第一審原告八名訴訟代理人弁護士 上田誠吉

同 島田正雄

同 中田直人

同 福島等

昭和四四年(行コ)第二六号事件控訴人

同年(行コ)第二八号事件被控訴人

第一審被告 日本電信電話公社

右代表者総裁 米澤滋

右指定代理人 福田朝幸

<ほか一二名>

右第一審被告訴訟代理人弁護士 永津勝蔵

同法務大臣指定代理人 横山茂晴

<ほか一名>

主文

一、第一審被告の控訴により原判決中第一審原告落合三郎、同蜂谷優夫に関する部分を取消す。

第一審原告落合三郎、同蜂谷優夫の請求をいずれも棄却する。

二、第一審原告西川二三雄、同佐藤秀雄、同藤原京一郎、同杉浦操六、同浜武司、同須永恭太郎の本件各控訴を棄却する。

三、訴訟費用中昭和四四年(行コ)第二六号事件に関する部分は第一、二審とも第一審原告落合三郎、同蜂谷優夫の負担とし、昭和四四年(行コ)第二八号事件に関する部分の控訴費用は第一審原告西川二三雄、同佐藤委雄、同藤原京一郎、同杉浦操六、同浜武司、同須永恭太郎の負担とする。

事実

(一)  昭和四四年(行コ)第二八号事件について

第一審原告(以下単に原告と略称する)西川二三雄、同佐藤秀雄、同杉浦操六、同藤原京一郎、同浜武司、同須永恭太郎(以上六名を以下単に原告ら六名という)訴訟代理人は、「原判決中原告ら六名に関する部分を取消す。原告ら六名と第一審被告(以下単に被告と略称する)との間に雇傭関係が存在することを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は控訴棄却の判決を求め、

(二)  昭和四四年(行コ)第二六号事件について

被告訴訟代理人は主文第一項同旨および「訴訟費用は第一、二審とも原告落合三郎、同蜂谷優夫(以上二名を以下単に原告ら二名という)の負担とする。」との判決を求め、原告ら二名訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次に記載したほかは原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する(ただし、第一審原告中村貫之助同加松計美関係部分を除くほか、原判決四枚目「定員法」とあるのを「昭和三六年法律一一一号による廃止前の昭和二四年法律一二六号行政機関職員定員法(以下単に定員法という。)」と改め、同二七枚目―記録七七丁―表一行目から二行目にかけて「社会的迫害にされながら」とあるを「社会的迫害にさらされながら」と改める)。

(原告ら訴訟代理人)

一、原告ら六名関係(昭和四四年(行コ)第二八号事件)関係について

(一) 定員法はアメリカ占領軍による対日占領支配政策を遂行するため占領軍の権力と指示によって制定されたものであるが、同法はポツダム宣言に違反する無効の法律であるから、この法律に基づく本件処分も無効である。すなわち日本はポツダム宣言を受諾し連合国に降伏し平和条約発効までその占領下におかれていたものであるが、この間の法律関係は基本的人権に関する確立された国際法規とポツダム宣言によって律せられるものであるところ、ポツダム宣言は「日本政府は日本国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去すべし。言論、宗教および思想の自由ならびに基本的人権の尊重は確立せらるべし、」「茲にポツダム宣言の条項を誠実に履行することならびに右宣言を実施するため連合国最高指令官又はその他特定の連合国代表者が要求することあるべき一切の措置をとることを天皇日本国政府およびその後継者のために約す」旨を宣言しており、連合国最高司令官の命令が思想の自由をはじめ基本的人権を侵害する場合は、その命令は基本的人権尊重に関する確立した国際法規ならびにポツダム宣言に違背し無効とすべきである。しかるに右定員法は思想の自由という基本的人権を無視し共産主義者またはその同調者を排除せんとする意図をもって遂行された当時の占領軍の対日政策に基いて制定されたものであるから右国際法規ならびにポツダムの宣言に違反し無効な法規というべきである。しかも、基本的人権の尊重等憲法の民主的平和的諸条項はポツダム宣言の内容と一致するとともにその実施を約束する具体的保障でもあるから、連合国最高司令官の命令といえども憲法の民主的平和的条項に反することはできず憲法の民主的平和的条項にも違反する連合国最高司令官の命令に基いて制定された同法は無効である従って同法附則第三項第五項に則ってなされた原告ら六名の本件免職は無効というほかはない。

(二) 原告ら六名に対する免職処分事由について

(1) 原告西川二三雄について

原判決は、被告の主張する(A)(B)(原判決事実欄以下同じ)の各事実を認めた上、それらはいずれも整理基準に該当すると認定する。しかし、原告西川は在職中遅刻欠勤は一度もなく、病気で欠勤したこともなかったから、原判決が、同原告につき勤務成績が不良であったと判断しているのは明らかに事実誤認である。

(2) 原告佐藤秀雄について

原判決は、被告の主張する(A)(B)(C)のうち(A)(B)の事実はこれを否定したが、勤務時間中ビラ貼り等の組合活動をした事実があると認定した上、整理基準の「勤務年数短かく勤務成績良好でない者」に該当すると判示する。しかし、右認定のビラ貼りの事実は、被告の何ら主張しない事実でかかる認定は弁論主義に反するものであり、また勤務年数が短かいという認定は昭和二二年一一月二五日の再採用の時点から起算するならともかく、昭和一六年逓信省に採用されその後兵役に服したため昭和二二年再採用となった経過を認定した上そのような判断をしたのであるから原判決は明らかに判断し誤ったものである。けだし、昭和一六年採用以降の実質を考慮に入れるならば、どのように考えても勤務年限の短かいものにあたるとは考えられないからであり、徴兵は同原告の意思に関係なく強行されたものであることは公知の事実であり、もし同原告にして兵役問題がなかったならば昭和一六年九月以降引き続き勤務したであろうことはまことに明白であるからである。

(3) 原告杉浦操六について

原判決は、被告の主張する(A)(B)の事実のうち(B)についてはその証明がないと判断したが、(A)の事実を認定した上この事実は整理基準三の非協力行為に該当すると認定する。しかし、同原告は当時被告が主張するように全逓本部に組合専従として常駐した事実はなく、従って官側の主張する組合専従名簿不提出という事態の発生することもあり得なかった筈である。仮りに、何らかの理由で組合専従者であると認定されるとしても、後記原告浜武司について詳述のように、政令第二〇一号自体が法律上無効であるから、その実施に関連してその指示に従わなかったとしてもその行為を目して非協力行為があったなどということは許されない。

(4) 原告藤原京一郎について

原判決は、被告の主張する(A)(B)(C)の事実を認めた上それらの事実は整理基準三、六に該当するという。しかし、右のうち(A)については、同原告が当時組合の執行委員であり、鶴見工場から三の橋工場へ連絡に行くような場合、ついでに組合のことで工場側と話し合う等組合活動は労働慣行として許容され、現に同原告の場合当時何ら問題なくそのようなことを行なってきたもので、原判決はかかる当時の労使間の慣行を無視するものである。また、(B)の認定も全く事実を誤認するものであり、(C)も、例えば、昭和二二年暮鶴見工場建設の要員として選ばれて同工場に派遣されたことに端的にあらわれているように、同原告が極めて優秀であったことを無視し、また他に勤務年限の短かい者が多数いたのに同原告のみが敢て選ばれた事実更にまた同原告が解雇された後新たに採用された者のある事実等を全く看過するもので不当である。

(5) 原告浜武司について

原判決は、被告の主張する(A)(B)(C)の事実をすべて認めた上、これらは整理基準三に該当するという。しかし右(A)(B)の事実はいずれも政令第二〇一号を前提とするものであるところ、同政令は日本を反共の防波堤とし兵器廠化するために日本独占資本を復活させ、当時急速に発展しつつあった労働者階級を押える必要から制定されたものであり、公務員労働者から団体交渉権と争議権を奪い組合運動を弾圧するためのものであって憲法第二八条に違反するものである。当時全逓が組合の総力をあげてこの問題に取り組み、同原告がその幹部の一員としてその反対運動を推進したのは当然であり、同原告の行為は全く正当な組合運動である。

あるいは、同政令はいわゆる超憲法的な効力を有するもので憲法を適用する余地はないとの反論があるかもしれないが、仮りにこの立場を是認するとしても、同政令はポツダム宣言に違反し無効である。けだし、日本はポツダム宣言を受諾し連合国に降伏し、平和条約発効までその占領下におかれたものであるが、この間の法律関係は確立された国際法規とポツダム宣言によって律せられ、従って「言論・宗教及び思想の自由並に基本的人権の尊重は確立せらるべし」とするポツダム宣言は連合国最高司令官をも拘束しており、連合国最高司令官といえどもこれに違反することは許されないと解せられるからである。

(C)についても全く正当な組合活動であって原判決のいう整理基準に該当しない。

(6) 原告須永恭太郎について

原判決は、被告主張の(A)(B)の事実を認定した上整理基準三の非協力行為に該当するとする。しかし、同原告は当時組合のいわゆる半専従として組合活動に従事していたもので、被告主張の事実はすべてこの組合活動の範囲内のものである。

二、原告ら二名関係(昭和四四年(行コ)第二六号事件関係)について

(一) 原告ら二名に対する本件免職処分が超憲法的効力を有する連合国最高司令官の指示に基づくものであるとしても、ポツダム宣言に違反する無効のものである。けだし、日本はポツダム宣言を受諾して連合国に降伏し、平和条約発効までその占領下におかれていたものであるが、この間の法律関係は確立された国際法規とポツダム宣言によって律せられ、従って「日本政府は日本国民の間における民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去すべし。言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は確立せらるべし」とするポツダム宣言は連合国最高司令官をも拘束しておりこれに違反することは許されないと解せられるからである。

(二) 被告は、被告(本件処分当時は電気通信大臣以下同じ)が本件免職処分をするにあたって考慮したという原告ら二名の具体的違法行為を当審において、あらためて主張するに至ったが、このような主張は許されない。すなわち、被告は原審第二七回準備手続期日において、すでにそれまで主張してきた内容において当審における主張と同一の具体的違法事実に関する主張を撤回した。このような主張を控訴審において再びむしかえすことは禁反言の原則からして許されないというべきである。

(三) 被告主張の原告ら二名に関する主張事実中両名が本件免職当時被告主張のような官職にあったことは認めるが、その余の事実はすべて争う。

(被告訴訟代理人)

一、原告ら二名関係(昭和四四年(行コ)第二六号関係)について

(一) 昭和二五年七月一八日附連合国最高司令官マッカーサー元師から内閣総理大臣吉田茂宛の書簡および同年九月五日の閣議決定、同月一二日の閣議了解からすれば、原告ら二名は共産主義者であるという理由だけで免職処分に付せられるべきものであるが、かりにその理由からだけでは免職処分が不適法であったとしても、原告ら二名は当時共産主義者であったばかりでなく、右両名には次のような具体的な違法行為があった。それ故原告等二名は共産主義者であり且つ機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだし又はみだる虞あるものと認められるものに該当するとして免職せられたのであって、その免職は適法である。ただし、これらの具体的事実は免職処分理由そのものではない。

(1) 原告落合三郎について

同原告は、免職当時技術員として東京都市電気通信部施設課に勤務していたものであり、日本共産党東京都市電気通信部細胞の機関紙「ケーブル」の発行責任者であったものであるが、

(イ) 在職中前示「ケーブル」および同細胞名入りのビラをしばしば発行し、これらの紙上を通じて共産党活動を積極的に行ない、よって国家公務員法(以下単に国公法という)第一〇二条第一項・人事院規則一四―七第六項第七号に該当する行為(ただし、前示「ケーブル」発行の点)および同条同規則第六項第一三号に該当する行為(ただし、前示ビラ発行の点)に出で。

(ロ) 前示「ケーブル」の一九五〇年九月八日付紙上に「機械だって休むのだ。特別指令けとばして残業拒否」、一九五〇年九月二二日付紙上に「誰がきてもこれ以上早くならないよ、」「上の連中変なことをしてんじゃないか?やればやる程へる手当!!」「係長になると急にバリッとするじゃないか」、一九五〇年一一月六日付紙上に「ケンカしたら電券が一冊」等と題する虚構の記事または事実を歪曲した記事を掲載し、よって公務の秩序をみだす行為に出で。

(ハ) 昭和二五年三月八日、勤務時間中無断で職場を離脱して当日行なわれた国際婦人デーの大会に赤旗旗手として参加し、よって国公法第一〇一条に該当する行為に出で。

(ニ) 昭和二五年九月一五日の全国電気通信従業員組合東京都市電気通信部支部第四回臨時大会において、日本共産党の主張であるところの「アメリカの政策は民族の独立を阻止し、日本を植民地化せんとするものである。」「アメリカは日本民族を奴隷化せんとしている。」「アメリカは日本を東洋への侵略基地化せんとしている。」「アメリカの軍事基地化に反対する。」「アメリカの経済援助も結局は自国の利益のためである。」等の発言をなし、よって公務の秩序をみだす行為に出で。

(ホ) 昭和二五年七月ごろから免職に至るまでの間、勤務時間中十数回にわたり無断離席または無断欠勤し、よって国公法第一〇一条に該当する行為に出でたものである。

(2) 原告蜂谷優夫について

同原告は、免職当時電気通信技官として電気通信省施設局資材部機械課に勤務していたものであり、日本共産党郵政省電気通信省合同細胞(以下郵政電通合同細胞という)に属していたものであるが、昭和二五年五月ごろおよびその前後ごろ、郵政省玄関等において「郵政電通合同細胞」名義のビラをしばしば配布し、特に同じころ、勤務時間中において日本共産党機関紙「アカハタ」を電気通信省施設局資材部管理課内で配布し、よって国公法第一〇二条第一項人事院規則一四―七第六項第七号に該当する行為(ただし、前示「アカハタ」配布の点)に出でたものである。

(二) 原告ら二名は、被告の右主張は禁反言の原則から許されないと主張するのでこの点について反論する。

(1) 被告は頭初原審において原告落合三郎同蜂谷優夫に対する免職理由は国公法第七八条第三号に基づくものであって、同人らが共産主義者で公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだる虞があり、公務員として適格性を欠くものと認めたことによる、と主張するに止まった。

しかし、原告ら二名は、本件免職処分を不服として人事院に審査請求をし、この請求に対し人事院においては原告ら二名の具体的行為を認定した上で原処分(本件免職処分)を承認するとの判定を下すに至った経緯もあったので、被告としては本件免職処分が妥当であって当然無効ではあり得ないことを強調する見地からその後の昭和三六年三月一八日付準備書面で原告ら二名の具体的行為を主張したのである。

(2) しかるところ、昭和三五年四月一八日最高裁判所大法廷の決定(昭和二九年(ク)第二二三号―民集一四巻六号九〇五頁)が下されるに至り、この決定につき被告は、原告ら二名についての人事院における審査請求事案の内容につきこれを援用する必要は最早ないものと判断し、原告ら二名指摘のごとき経緯の下にこれを撤回するに至ったものである。

(3) のみならず、原審における被告の主張は、原告ら二名は共産主義者またはその同調者であって公務の正常な運営を阻害する等秩序をみだる虞があり、公務員としての適格性を欠くが故に本件免職処分がなされたものであり、右免職処分は連合国最高司令官の指示に基づくものであるというのがその主張の要点であって、問題の原告ら二名の具体的行為は、同人らが公務員としての適格性を欠くことの認定の妥当性を強調するための象徴的事実として主張したに過ぎない。原告ら二名は、これに対し右指示の存在および効力を争うとともに、本件免職処分は右両名の思想信条を理由とするものであって、憲法第一四条に違反すると主張していただけで、右指示が排除を要請しているのは共産主義者またはその同調者であるというだけでなく、これらの者のうち秩序をみだりまたはみだる虞れがあると認められる具体的活動の存在するものについてのみ排除を指示したものであるとの主張はしていなかった。

しかるに、原判決は、右の連合国最高司令官の指示を限定的に解釈すべきであり単に共産主義者またはその同調者であるというだけでは右指示に基く免職の事由とはならずそのためには業務の秩序をみだしまたはみだる虞れがある具体的事実をも要するとの見解の下に被告敗訴の判決をなすに至った。そこで、被告としては、原審の右判断には承服し難いところではあるが、訴訟遂行上万全を期するために原告ら二名の免職理由として新らたに両名の具体的行為をも附加して主張したものであって原審での主張とはその趣旨を異にするが、前記訴訟の経過に照し当審における右の主張が禁反言の原則に惇るものではない。さらに、原告ら二名が原審において被告の主張の撤回に反対した理由は、要するに、訴の取下ないしは自白の撤回に準じて相手方の同意を要するというにあったが、自白の撤回のように訴訟上特別の規定のない限り主張の撤回は当事者が自由になしうるところであって、原告ら二名の右主張は独自の見解であり何ら根拠のないものである。

二、原告ら六名関係(昭和四四年(行コ)第二八号関係)について

(一) 定員法がポツダム宣言に違背するとの主張について

定員法は、わが国の立法機関により自主的に立法されたものであって、「占領軍の権力と指示」によって制定施行されたものではなく、従って連合国最高司令官が確立された国際法規ならびにポツダム宣言に違背してなした命令の効力を云々する原告ら六名の定員法無効の主張はその前提を欠くもので失当である。

(二) 原告ら六名に対する免職処分の理由についての見解に対する反論

(1) 原告西川二三雄について

同原告は、「在職中遅刻・欠勤は一度もなく、病気で欠勤したことも一度もなかった」とし、このことを前提として、「総じて同原告の勤務態度は良好であったと考えられる」との結論に基づき原判決を非難するが、仮りに、遅刻・欠勤については、同原告主張のとおりであったとしても、原判決認定の(B)の事実が存在する限り、「平素の勤務能率が著しく低い者および平素の勤務成績が著しく悪い者」に該当するものであって、前者の事実と後者の事実との間には必然的な因果関係は存しない。

(2) 原告佐藤秀雄について

同原告は、原判決が認定した「ビラ貼りの問題は被告の何ら主張しない事実を認定したもので弁論主義の建前に反するものである」と主張し原判決を攻撃するが、被告は原判決事実摘示のとおり「職場以外においてフラク活動……」をしたと主張しており、原判決認定のビラ貼りの行為は右フラク活動の一部に属するものであるから原告の右攻撃はあたらない。また、原告は、原判決が、同人が採用された時点である昭和二二年一一月二五日から起算して勤務年数が短かいという認定をしたのは明らかに判断を誤ったものであると攻撃するが、≪証拠省略≫に照らすとき右攻撃はいわれないものであることは明らかである。

(3) 原告杉浦操六について

同原告は、全逓本部に組合専従として常駐したことを前提として、「組合名簿不提出という事態の発生することもあり得なかった筈である」と主張し原判決を攻撃する。しかし、原判決は、「右名簿不提出のまま組合事務に専従し」と認定したのみで、専従名簿の不提出についての非難につき専従場所を不可欠の要件としていないことは明らかである。従って、その常駐した場所が全逓本部ではなく「当時の虎ノ門国際電気通信施設部の建物の中」の一室であったかも判らないが、この常駐の具体的場所について被告に誤認があったとしても、被告の同原告に対する責任追求の理由が判示のとおり同原告が通達に反して名簿不提出のまま組合事務に専従したことにあるから同原告の主張は失当である。次に、同原告は、政令第二〇一号自体が法律上無効であることを前提として、指示に従わなかったとしてもその行為を目して非協力行為があったなどということは許されないと強弁するが、政令第二〇一号は有効であるから同原告の右主張も失当である。

(4) 原告藤原京一郎について

同原告についての原判決は、同原告の主張するような諸点につき何らの誤りをも犯していないのであるから同原告の主張はすべて失当である。

(5) 原告浜武司について

同原告は、昭和二二年ごろ以降におけるわが国の労働者階級の急激なる前進という国内的事情および同人が主張するような国際的変化に伴い、アメリカ占領軍は占領当初の占領目的を変更し、究局的には「労働者階級を押える必要から」政令第二〇一号を制定せしめたのみならず、同政令は、その内容において「公務員労働者から団体交渉権と争議権を奮った」ものであるから、右政令の制定の経過およびその内容からみて同政令は憲法第二八条に違反し無効であると主張するが、同政令は、被告が既に述べてきたように有効であるから同原告の主張は失当である。

次に、同原告は、右政令がいわゆる超憲法的な効力を有するものであるとしても、同政令はポツダム宣言に違反し無効であると主張する。しかし、同政令は、連合国最高司令官が基本原則を示して日本政府にこれを実施するよう要求した結果制定されたものであり、このことは、降伏文書に「天皇・日本国政府およびその後継者がポツダム宣言の条項を誠実に履行すること並に右宣言を実施する為連合国最高司令官又はその他特定の連合国代表者が要求することあるべき一切の命令を発し且斯る一切の措置を執ること」を規定されている当然の結果というべきである。また、それと同時に、「天皇及日本国政府の国家統治の権限は本降伏条項を実施するため適当と認むる措置をとる連合国最高司令官の制限下に置かるるものとす。」と規定されているのであるから、同政令の効力は超憲法的なものというべきであり、その当時、わが国が置かれていた国際的地位なるものは、連合国最高司令官の権限下にあったものであるから、連合国最高司令官の権限行使につきその制限下にあるわが国の判断が、その当否につき判断する機能を有しないことは極めて明白であるから、この点についての同原告の主張も理由がない。

(6) 原告須永恭太郎について

同原告の主張するいわゆる半専従については、官側においてこれを承認した事実はないから原判決の判断には誤りはなく同原告の主張は失当である。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、原告ら六名の請求について(昭和四四年(行コ)第二八号事件関係)

原告ら六名の請求については、当裁判所の判断も次に記載するほかは原判決理由一(原判決三〇枚目二行目から同三六枚目表二行目まで、ただし、第一審原告中村貫之助に関する部分を除く)の説示と同一であるからこれを引用する。

(一)  定員法はポツダム宣言に違反する無効のものであるという主張について

対日占領下における連合国最高司令官といえどもその占領政策遂行の上で基本的人権尊重に関する国際法規ならびにポツダム宣言の趣旨を尊重遵守すべきものであったことは当然のことといえるが、たとえ定員法の制定の経過ないし目的とするところが原告等二名の主張する通りであったとしても、当判決で引用する原判決で判示するように同法附則第三項第五項は現行憲法に照らして違法のものといえない以上同法が無効であるとして右規定に基く免職処分の無効を主張することは許されない。

(二)  各人の処分事由について

(1)  原告西川二三雄について

同原告は、同人が在職中遅刻欠勤や病気による欠勤もしたことがなかったことを前提として原判決が同原告につき勤務成績が不良であったと認定したことの不当を主張するが、原判決は同原告に遅刻・欠勤があったと認定したものではなく、被告主張の(A)(B)の行為があったことを認定し、これをもって被告の定めた整理基準に該当すると認定したもので、その認定は是認できるから、同原告の主張はあたらない。

(2)  原告佐藤秀雄について

同原告は、原判決が、同原告が勤務時間中ビラ貼り等の組合活動をしたと認定したことをもって、被告の主張しない事実を認定したもので弁論主義に反すると主張するが、被告は「同原告が職場以外においてフラク活動……」をしたと主張しており、原判決認定のビラ貼りの行為は被告主張のフラク活動の一部に属することは明らかであるから同原告の右主張は失当である。また、同原告は、原判決が同原告において昭和一六年九月逓信省に採用されたことを認定しながら、再採用された昭和二二年一一月二五日から起算して勤務年数が短かいと認定したことの不当を主張するが、同原告は兵役に服し昭和二二年一一月二五日再採用になったものである以上新たな採用というほかはなく右時点から起算すべく従って勤務年数が短かいものというべきであり、同原告のこの点に関する非難もあたらない。

(3)  原告杉浦操六について

同原告は、全逓本部に組合専従として常駐した事実のないことを前提として組合名簿不提出という事態の発生することもあり得なかった筈であると主張し、≪証拠省略≫によると、同原告は当時虎の門国際電気通信施設部の建物内で組合事務に従事していたことが認められるが、原判決は「政令第二〇一号の公布施行に伴い、組合専従者名簿を所属長に提出して組合専従の承認を受けるべき旨逓信大臣から通達されていたにもかかわらず、右名簿不提出のまま組合事務に専従し」たと認定したのみで、同原告が全逓本部に常駐していたことは認定していないのであるから、同原告の右主張も理由がない。また、同原告は、前記政令自体法律上無効であることを前提として、その実施に関連して出された指示に従わなかったとしてもその行為を目して非協力行為があったということはできないというが、同政令が有効であることは後記のとおりであるから、この点の主張もあたらない。

(4)  原告藤原京一郎について

同原告は、原判決の認定した(A)の事実につき、同原告が当時組合の執行委員であり、鶴見工場から三の橋工場へ連絡に行くような場合、ついでに組合のことで工場側と話をする等の組合活動は労働慣行として許容されてきたもので当時の労使間の慣行を無視するものであるというが、右労使間の慣行として許容されていたとの点に関する≪証拠省略≫は≪証拠省略≫と比較して信用し難く、他に右主張を肯認すべき証拠はなく、同原告のこの点に関する主張は理由がない。

(5)  原告浜武司について

同原告は、政令第二〇一号が憲法第二八条に違反し、無効なものであるから同政令に反対するのは当然であり、同原告が組合幹部の一員としてその反対運動を推進したのは当然であり、同原告の行為は全く正当な組合活動であると主張する。しかし、同政令は昭和二〇年勅令第五四二号に基づいて制定されたものであるが、右勅令第五四二号はわが国の無条件降伏に伴う連合国の占領政策に基づき連合国最高司令官のなす要求に係る事項を実施する必要上制定されたものであるから、憲法にかかわりなく憲法外においてその法的拘束力を有するものと解すべきであり、右政令第二〇一号が昭和二三年七月二二日附連合国最高司令官の内閣総理大臣宛書簡(同書簡の内容は国家公務員制度を同政令に盛られたような改正の方向を指示要求したものと認められる)により制定されたものであるから同政令が憲法に反し無効であることを前提とする原告浜武司の右主張は採用できない(昭和二四年(れ)第六八五号同二八年四月四日最高裁判所大法廷判決刑集七巻四号七七五頁参照)。また、同原告は前記政令の効力が超憲法的であるとしてもポツダム宣言に違反し無効であると主張するが、同政令の成立過程は前記のとおりでありポツダム宣言は連合国の占領政策の原則を抽象的に定めたものにすぎないところ、「天皇・日本国政府およびその後継者がポツダム宣言の条項を誠実に履行すること並びに右宣言を実行するため連合国最高司令官又はその他特定の連合国代表者が要求することあるべき一切の命令を発し且つかかる一切の措置を執ること。」ならびに「天皇は日本国政府の国家統治の権限は本降伏条項を実施するため適当と認むる措置をとる連合国最高司令官の制限の下に置かるるものとす。」と規定する降伏文書に調印した当時の我国の国際的地位に鑑みわが国は連合国最高司令官の右原則の解釈ならびにその原則に従う権限行使につきその当否を判断する機能を有しなかったことは明らかであり、かつその政令の効力はその制定当時の法令に照らし判定すべきものであるから、右政令のポツダム宣言違反を理由とする同原告の右主張は採用できない。

(6)  原告須永恭太郎について

同原告は、当時組合のいわゆる半専従として組合活動に従事していたものであり、勤務時間中でも組合活動をすることを官側も承認しており、被告の主張する事実はすべてその範囲内のものであると主張し、当審における同原告本人尋問の結果中には勤務時間中でも組合の仕事をしてよいという官側の了解ないし協定があった旨の供述部分が存するが、右供述部分は≪証拠省略≫と比較して容易に信用し難く、他に右事実を肯認するに足る証拠はないから同原告の、その主張のごとき官側との了解ないし協定が存したことを前提とする右主張は採用できない。

二、原告ら二名の請求について(昭和四四年(行コ)第二六号事件関係)

(一)  原告ら二名がいずれも旧電気通信省の職員として原判決別紙(一)記載の勤務場所に勤務し同記載の身分を有していたところ、昭和二四年一一月九日か一〇日のいずれかの日に任命権者である電気通信大臣から、原告ら二名がいずれも共産主義者であって国家公務員法上の公務員としての適格性を欠くという理由により免職処分に付せられたことは当事者間に争いがない。

(二)  ところで、本件各処分はいずれも終戦後平和条約発効前に行われたものである。わが国はポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印して、連合国に対し無条件降伏をした結果、連合国最高司令官は、降伏条項を実施するため適当と認める措置をとる権限を有し、この限りにおいてわが国の統治の権限は連合国最高司令官の制限の下に置かれることとなった(降伏文書八項)。また日本国民は、連合国最高司令官により又はその指示に基づき日本国政府の諸機関により課せられるすべての要求に応ずべきことが命令されており(同三項)、すべての官庁職員は、連合国最高司令官が降伏実施のため適当であると認めて自ら発し、又はその委任に基き発せしめる一切の布告・命令及び指令を遵守し且つこれを実施することが命令されている(同五項)。そして、わが国は、ポツダム宣言の条項を誠実に履行することを約すると共に、右宣言を実施するため連合国最高司令官又はその他特定の連合国代表者が要求することあるべき一切の指令を発し且つ一切の措置をとることを約した(同六項)。さらに、日本の官庁職員及び日本国民は、連合国最高司令官または他の連合国官憲の発する一切の指示を誠実且つ迅速に遵守すべきことが命ぜられており、もしこれらの指示を遵守するに遅滞があり、またはこれを遵守しないときは、連合国官憲および日本国政府は厳重且つ迅速な制裁を加えるものとされている(指令第一号附属一般命令第一号の一二項)。それ故連合国の管理下にあっては、日本国の統治の権限は、一般には憲法によって行われているが、連合国最高司令官が降伏条項を実施するため適当と認める措置をとる関係においては、その権力によって制限を受ける法律状態におかれているものといわねばならぬ。すなわち、連合国最高司令官は、降伏条項を実施するためには、日本国憲法にかかわりなく法律上全く自由に自ら適当と認める措置をとり、日本官庁の職員に対する指令を発してこれを遵守実施せしめることを得るのである(前顕昭和二八年四月八日最高裁判所大法廷判決参照)。

そして、本件各免職処分が、昭和二五年五月三日付連合国最高司令官の声明、同年六月六日付、同月七日付、同月二六日付、同年七月一八日付連合国最高司令官の内閣総理大臣宛各書簡等(その内容は最高裁判所民事判例集一六巻二号三一一頁ないし三一九頁、および二九五頁参照)による連合国最高司令官の指示を実施するために行なわれたものであることは被告の主張自体から明らかである。

そこで、本件各処分が連合国最高司令官の指示内容に適合するものであるかどうかの点について考察する。

1、連合国最高司令官の指示が、ただ単に「公共的報道機関」についてのみなされたものではなく、「その他の重要産業」をも含めてなされたものであることは、当時同司令官から発せられた前記屡次の声明および書簡の趣旨に徴し明らかであり(最高裁判所昭和二九年(ク)第二二三号同三五年四月一八日大法廷決定・最高裁判所民事判例集一四巻六号九〇五頁以下参照)、平和条約発効前においては、わが国の国家機関および国民は、連合国最高司令官の発する一切の命令指示に誠実且つ迅速に服従する義務を有し、わが国の法令は右指示に抵触する限りにおいてその適用を排除されるものであることは前記のとおりであり、国家機関で電気通信事業を営む公共企業体の性格を有する旧電気通信省がこれに該当することはいうまでもない。

2、連合国最高司令官の前記声明および内閣総理大臣あての各書簡の趣旨は、当時の連合国最高司令官において、国際的および国内的情勢の下における占領政策を示し、この占領政策を達成するために必要な措置として、公共的報道機関その他の重要産業から共産主義者またはその支持者を排除すべきことを要請した指示であり、しかも、その指示は共産主義者またはその支持者と認められる限り、そのすべてを排除すべく要請したものと解するを相当とし(最高裁判所昭和二七年四月二日大法廷決定、最高裁判所民事判例集六巻四号三八七頁以下参照)、官庁、公団、公共企業体等については、共産主義者またはその支持者のうち、その機密を漏洩し業務の正常な運営を阻害するなどその秩序をみだし、またはみだる虞があると認められる者であるかどうかを判断させ、これに該当する者のみを排除すべく裁量の余地を与えたものと解することはできない。右指示(前記七月一八日付書)は「今日までの諸事件は共産主義が公共の報道機関を利用して、破壊的暴力的綱領を宣伝し、無責任不法の小数分子を煽動して法に背き、秩序を乱し、公共の福祉を損わしめる危険が明白」であると判断し、この判断を前提として、共産主義者またはその支持者の排除を指令しているのである。したがって、原判決添付の別紙(二)(三)の閣議決定、同了解も、「共産主義者またはその支持者」であるかどうかの判定に慎重を期し、且つ右指令の実施を円滑に行なう目的で、そのような表現をとったものと解すべく、共産主義者またはその支持者であることが明らかな者についても、さらに機密を漏洩し、業務の正常な運営を阻害する等その秩序をみだり、またはみだる虞があるかどうかを判断し、その虞がないと認められる者はこれを排除の対象から除外すべきものとした趣旨とは解し難い。

3、原告ら二名がいずれも本件処分当時日本共産党員であり、共産主義者であったことは≪証拠省略≫によって明らかであるから、これを理由としてなされた本件各免職処分は、右指示に適合するものとして有効といわざるをえない。

(三)  原告ら二名は、本件各免職処分は、憲法第一四条、第一九条、労働基準法第三条に違反すると主張する。しかし、本件各免職処分は、連合国最高司令官の指示に基づくものであり、しかも、平和条約発効以前においては、同司令官の発する一切の命令、指示は、日本国憲法をはじめ労働基準法労働組合法等の国内法規にかかわりなく法律上効力を有するものであることは前記のとおりであるから原告ら二名の右主張は採用できない。

(四)  また、原告ら二名は、本件各免職処分はポツダム宣言に違反すると主張する。しかし、前記のとおりポツダム宣言の定める連合国の占領政策の原則の解釈適用の当否についてはわが国はその判断機能を有せずかつその処分の効力は当時の法令に照し判定すべきものであるから右主張はこれを採用できない。

(五)  以上のとおり、本件各免職処分は、その余の争点につき判断するまでもなく、原告ら二名指摘の点について無効原因がなく、有効であることが明らかであるから、原告ら二名の本訴請求はいずれも理由がなく、これと異なる原判決はこれを取消し、原告ら二名の本訴請求はいずれも棄却すべきである。

三、以上の次第で原告ら六名の本件各控訴はいずれも理由がないが、被告の本件控訴はいずれも理由があるから民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第九五条、第九三条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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